05 藤野アコウ群

未知の植物との遭遇

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植物はその土地を特徴づける重要な要素だと思う。
常緑樹の多い鹿児島の森は、年中青々として見える。
冬になると多くの木々の葉が落ち色を失う関東の森とは対照的だ。

アコウは桜島の代表的な植物のひとつだ
国内では主に四国、九州、沖縄に分布し、本州ではほとんど見られないという。
鹿児島ではおなじみの樹木かもしれないが、ボクにとっては未知との遭遇であった。

藤野アコウ群は、桜島の北西部に位置する。
高さ10メートル級のアコウの木々が、約200メートルにわたり県道に覆いかぶさるように並んでいる。
まさに「緑のトンネル」のよう。日かげの気持ち良いスポットだ。

近くで見ると迫力が違う。
幹が幾重にも複雑に絡みあい、空を目指して伸びている。
人の背丈ほどの石垣は、アコウにがっしりと抱き込まれている。
「白波」の看板も石垣と同じく木に覆われ、もはや脱出は難しそうだ。
アコウ群の途中にある浜平バス停は、いつか埋もれてしまわないかとちょっと心配になってしまう。
ところどころ空中に根を出す姿はガジュマルに似て、南国を思わせる。

幹から空気中にたれる根を気根という。
気根は地面に向かって下へ成長する。
種子がほかの木の上で発芽すると、やがて気根が親木を覆い、枯らせてしまうこともある。
そのため、アコウは「絞め殺し植物」とも呼ばれるそうだ。
物騒な呼び名だが、生きるためのアイデアの結晶。
ここの石垣や看板は、親木の代わりに絞められている。

旧桜島町の町木であったアコウは島内各地で見られる。
桜島支所には大木がそびえ、東桜島町の海沿いのものは樹高20メートルもある。
なかには、海際の岸壁に必死にしがみつく根性のあるものも。

青々とした森やアコウといった異郷の景色にも、前ほどの違和感を覚えなくなってきた。
この土地での生活に、着々と身体がなじんできた証拠だろう。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2012年7月17日「桜島ルーキー日記(藤野アコウ群)」 ※筆者本人により一部加筆修正

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