11 火山灰か溶岩か
ハイレベルな会話に驚嘆
A氏「毎日火山灰が降って大変」
B氏「早く溶岩を流して噴火が落ち着けばいいのに。溶岩流はゆっくりだから逃げられるし」
A氏「ですよね。けど私の家が埋まってしまうかも」
両氏:「ハハハ」
ある日の地元の人同士の会話だ。
なんとレベルの高いやりとりなのだろうか。
勝手に検証したい。
「灰が降って大変」。おっしゃる通りである。
噴火は何度見てもカッコいいが、降り続く火山灰には苦労も多い。農業などへの影響は計り知れないし、日常生活だって大変だ。
「溶岩流して落ち着けばいいのに」。
これが一番驚きのセリフである。
降り続く火山灰VS溶岩。
究極の選択の後、B氏は溶岩流出を選んだ。
「溶岩流はゆっくり...」も的を射ている。
粘性の高い安山岩質の桜島溶岩は、あまり速くは流れない。
条件によって異なるが、大正溶岩の平均流速は、1時間でたったの100m程度だったという。
溶岩に限れば歩いてでも逃げられる。
「私の家が埋まってしまうかも」。そうなのだ。
その可能性を否定できないのが桜島で暮らす者の宿命である。
しかし、それを「ハハハ」と笑い飛ばすたくましさ。
うーん、参ったな。こりゃすごいところへ引っ越してきてしまったぞ。
島内や周辺の方へ桜島のことをたずねれば、思い出を交えて様々な話をしてくださる。
その中には、日常の降灰被害や噴火災害なども、もちろん含まれる。
火山と生活が密接に関っている証拠だ。
住民が自分たちの暮らす土地の自然環境を語れる地域は、そう多くないのではないか。
誇りにすべきことである。
一方で、今後桜島は、私たちが経験したことのない現象を引き起こすこともあるだろう。
大噴火の際になにが発生しうるのか。
そちらも改めて確認し、しかるべき行動を考えておきたい。
想定外に悔やむことのないように。
NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2012年10月16日「桜島ルーキー日記(火山灰か溶岩か)」 ※筆者本人により一部加筆修正