13 竹之下商店

島の生活感じさせる音

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旅先ではおいしいものを食べたい。
せっかくであれば事前に調べ、その土地の名物と呼ばれるものをいただきたい。
そんな楽しみ方ももちろんあるが、最近少し思うことが変わってきた。
町の小さな食堂にふらっと入ってみようかな、食べるものはなんでもいいか、というように。
きっかけはこの店だ。

島内有数の住宅密集地である東桜島町は、坂の上から見る家並みと海の美しい町だ。
竹之下商店はそんな集落の中にある。
日用品や鮮魚が並ぶ地域の商店であり、弁当屋でもある。
数席の店内では、食事をすることもできる。

店で食べる定食はボリューム満点。ご飯はお替り自由。
「たくさん食べて仕事を頑張れ」という店主の心意気が良い。
ご飯、汁物、メーンのおかず、そのほかにも小皿がいくつか。
食生活の乱れがちな1人暮らしの身には、非常にありがたい昼食だ。

ボクは、この店の「音」が好きなのだ。
引き戸を開ければ呼び鈴の音。
席に座れば調理器具が鳴り、油ものが揚がり、店員さんの声が飛び交う。
厨房は今日も忙しそうだ。
昼時のTVからは、全国ネットの番組が流れ、お客さんはそれぞれに会話と食事を楽しんでいる。
意識せずとも耳に入ってくる音が、桜島での生活を改めて感じさせてくれるのだ。

一見、至って普通の弁当・定食屋。
しかし、食材や味付けのひとつひとつは、きっとこの土地に根ざしたものに違いない。
ここに暮らす人々が作り、ここに暮らす人々が食べるのだから。
聞けば、米は隣の垂水産、野菜と魚は市場で仕入れた旬のもの。なんとも贅沢ではありませんか。

地元の人が通うお店で、その土地の飾らない食文化に触れるのも、立派な旅の醍醐味なのだろう。
そんなことを考えながら、今日もご飯をもう一杯。
この前買った体重計には、しばらく乗らないことにしよう。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2012年11月6日「桜島ルーキー日記(竹之下商店)」 ※筆者本人により一部加筆修正

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