15 温泉ホテル

湯船と潮風、心洗われ

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3年ほど前、神奈川から桜島へ来て、最初に暮らしたのは古里町だった。
島の南に位置し、林芙美子の文学碑や温泉が有名な地域。
町のほとんどは急な斜面にあり、坂をはうように住宅や畑が並ぶ。
太陽は一日を通して高く、錦江湾を照らす。
薩摩、大隅両半島が南に伸び、遠くに開聞岳が見える。
居住期間は短かったが、印象は深い。

爆発があれば震える家、空飛ぶジェット機の音にも似た鳴動、屋根を打つ火山灰と礫(れき)。
庭や車は朝を迎えるたびに白くなる。
全てがはじめての経験だ。
桜島火山に暮らす厳しさを、すぐに体感することとなった。
一方で良い面もたくさんある。
そのひとつは、温泉だ。
桜島シーサイドホテルは、ボクが鹿児島で最初に通った温泉である。

男女別の内湯と露天風呂、貸切風呂、海辺の混浴露天風呂を備えた同ホテル。
海辺にある露天風呂の開放感はバツグンだ。
特に月夜はたまらない。

屋外にある数十段の階段を下りきると、海がグンと近くなる。
到着だ。
絶えず注がれる褐色の湯は、浴槽から常にあふれ出している。
月が照らす海の上を垂水フェリーが行き交い、遠くに町の明かりが見える。
自然と人間が作り出す、大きな景色を楽しみたい。

潮風を感じながらのんびり風呂に入っていると、頭の中が整理されてゆくのはなぜだろう。
普段とは異なる思考の回路が、無意識のうちに働き始めるのだろうか。
忙ければ忙しいほど、温泉に通いたくなってしまう。

ホテルゆえに、地元の利用客のみならず、宿泊客も多い。
初めての頃は地元の方に桜島のことを教わりながら、今では観光客へ桜島のことを話しながら湯につかる。
時間の経過を感じる瞬間だ。

島での日々は苦労が多く、しかし贅沢でもある。
古里町と温泉を通じて、島暮らしの一歩目を学んだ。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2012年12月4日「桜島ルーキー日記(温泉ホテル)」 ※筆者本人により一部加筆修正

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