24 夜の噴火
美しく衝撃的な光景
夜の噴火口をはじめて見たのは、桜島へ来て2ヶ月ほど経った頃だった。
当時住んでいた古里町は火口からの距離が近く、時折ゴオオという鳴動が聞こえてくる。
その晩の鳴動は、やけに大きかった。
少し怖くなり、島の東側まで昭和火口を見に行ったのだ。
火口はぼんやりと赤く光っていた。
これを火映現象と呼ぶらしい。
音の強弱にあわせるかのように、赤い光も濃淡を変える。
山が呼吸をしているかのようだった。
後日、その「続き」を見るために、また夜に出かけた。
噴火口をじっと見つめて、爆発の瞬間を待った。
鳴動と火映が止んだ。
しばらくすると、昭和火口から赤い何かが飛び出してきた。
そして、それは次々と火口周辺に落ちてゆき、山肌をあっという間に赤く染め上げてゆく。
まるで大地が血を流しているかのようだった。
高温の噴石が、夜間には赤く見えるのだという。
黒煙はグングンと空へ伸び、10秒ほど遅れて大きな爆発音が聞こえてきた。
その場を動けない衝撃だった。
このような景色を、まさかこの目で見ることができるとは。
人生で一番といってよいほどの「非日常」の光景が、すぐ目の前で繰り広げられているのだ。
動けないのは恐怖からだけでない。
美しいのだ。
どんな花火より、どんな明かりよりも美しい。
火山が信仰の対象となることに納得がいった。
人の手が到底及ばぬところで、新たな大地が創られていたのである。
人は、大地の営みを忘れがちだ。
災害にあってはじめてそのことに気がつく。
そして、次の災害まで、それをまた忘れてしまう。
地球が動いていることを、こんなにも日常的に教えてくれる場所は、桜島以外にどれだけあるのだろう。
桜島は今も休まずに生きている。
動物も植物も人間も、生きた大地の上に生きる、小さな存在なのである。
NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2013年4月23日「桜島ルーキー日記(夜の噴火)」 ※筆者本人により一部加筆修正