27 有村海岸
限定条件で味わう秘湯
本連載が始まり、丸一年がたった。
ありがたいことに読んで下さる方もいらっしゃるようで、時々声をかけていただく。
それを励みと心地よいプレッシャーにしつつ、今年も桜島日記をつけてゆきたい。
引き続き、お付き合いよろしくお願いします。
さて、本日紹介する有村町の海岸は、「掘る」と温泉が湧き出す非常に珍しい場所だ。
ヘルメットをかぶり、重厚な機械を操作して、地下数百mまで掘削し...、というわけではない。
準備するものはスコップひとつで十分だ。
波打ち際をスコップで少し掘ると、暖かなお湯が湧き出してくる。
5分も掘り進めれば、足湯にピッタリのミニ露天風呂のできあがりである。
温度は30℃台から40℃台後半まで、場所によってさまざま。
湯の色も異なる。
波音を聞きながら出来立てホヤホヤの天然の足湯に浸かれるなんて、なんとも贅沢だ。
しかし、いつでも温泉が出るわけではなく、潮汐によってその時間帯は毎日変化する。
限られた条件下でしか現れない「秘湯」といってもよいだろう。
温泉はもちろんだが、海岸そのものの成り立ちも興味深い。
有村川の河口に位置するこの場所は、度重なる土石流の堆積物でつくられている。
岩があちこちに転がっているのはそのためだ。
今でも大雨が降れば土石流が発生するので、雨天時には絶対に近づいてはならない。
さらに、海岸の三方を取り囲むように溶岩が分布している。
安永(1779年)、大正(1914年)、昭和(1946年)。
三つの異なる時代に流れた溶岩が、この場所に到達しているのだ。
溶岩上の植生が、重ねた年月の違いを物語る。
足元に湧く温泉、踏みしめる土石流堆積物、目の前に横たわる溶岩。
火山がもたらす良い面と悪い面。
一カ所にいながらそのどちらをも身体いっぱいに体感できる場所は、桜島といえどもそう多くないだろう。
NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2013年6月11日「桜島ルーキー日記(有村海岸)」 ※筆者本人により一部加筆修正