28 ネムノキの道
梅雨に彩り添える存在
鹿児島へ来て4度目の梅雨だ。
今年は今のところ少雨だが、大粒の雨が「ゴオゴオ」と激しく降る鹿児島の梅雨には毎年驚く。
「シトシト」と降ることが多い関東の梅雨とは、ずいぶん違うのだ。
桜島の山頂は雲の中。対岸の鹿児島市街地すら白く霞み、景色から色がなくなる季節だ。
そんな梅雨を待っていたかのように島に彩りを添えてくれるのが、ネムノキである。
冬には葉を落とし、春になると他の木々より少し遅れて新緑をつける。
そして、梅雨頃から美しい花を咲かせるのだ。
ピンクと白の淡い色の花は、筆のようでも、耳かきの綿のようでもある。ふわふわと優しい印象だ。
糸のように細長いおしべが集まり、このような特徴的な姿に見えるのだという。
黒神町の県道沿いには、約1㎞にわたりネムノキが並んでいる。
その他の時期には目立たない。
しかし、花咲く梅雨にはその存在に思わず目が留まる。
このネムノキ、「眠る」ことからその名がついたといわれている。
わずか1センチほどの小さな小葉は、2枚ずつが向かい合って無数に並んでいる。
この向かい合った小葉同士が、夜になると合掌するように閉じる。
午後10時ごろ、観察に出かけると、どの葉もぴったりと閉じており、枝は収穫時期の稲のように頭を垂れていた。
確かに「眠っている」ようである。
葉が眠る一方、花が最盛を迎えるのは夕方以降だ。
夜間に活動する蛾に花粉を運んでもらい、子孫を残す戦略なのだ。
眠ったり咲いたりと忙しい。
遠くからでは動きの見えにくい植物も、毎日を力強く生きているのである。
遠くの景色が霞みがちな梅雨。
しかし、そんな季節だからこそ、すぐ目の前の景色を楽しむことができるのかもしれない。
身近なものの変化に目を向けながら、雨上がる夏を待ちたい。
『南日本新聞』 2013年6月25日「桜島ルーキー日記(ネムノキの道)」 ※筆者本人により一部加筆修正