29 シーカヤック

こいで実感

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わが家からは、道路と街路樹の向こうに海が見える。
庭で洗車をしていると、いつもと違う波音が聞こえてきた。
イルカだ。
背びれを時折水面に見せながら、ゆっくりと群れが進んでいた。
野生のイルカがすむ海とそれを感じられる家。
これだけ聞いたら楽園のようだ。
桜島の海は豊かであると、あらためて恐れ入る。

シーカヤックに乗れば、そんな豊かな海で思う存分遊ぶことができる。
桜島で覚えたことはたくさんあるが、これもそのひとつだ。
全長数メートルの小舟を水に浮かべ、パドルという道具を使って自分の力でこいでゆく。
非常にシンプルな乗り物だ。

洋上では、普段眺めているだけでは気づかない海の姿を知ることになる。
潮は勢いよく動き、なにもしなければ舟は流される。
風の向きは刻々と変わり、強く吹けば波が立つ。
軽石が水面を漂い、時には小魚の群れが勢いよく目の前をはねる。
海を構成するもののひとつひとつを肌で感じられるかのようだ。

行き先によって見られる景色はそれぞれ違う。
たとえば、桜島港のすぐそばは荒々しい大正溶岩原。
大量の溶岩は山の麓の集落を飲み込み、さらには海を埋め立てて現在の海岸線を作った。
噴火から100年。陸地には徐々に植物が回復し、クロマツの林ができている。

海中の溶岩はどうだろう。
覗いてみれば、サンゴや海藻が生え、魚たちが忙しく行き来している。
噴火で一度は崩れたはずの自然が、ちゃんと復活しているのだ。
同海域は、日本で初めて海中公園(現在の海域公園の前身)に指定された場所だという。

20メートルはあろうかという溶岩の断崖。
こんこんと湧きあがる海中の温泉。
噴火活動でできた小さな無人島。
桜島の周りには、シーカヤックだからこそ楽しめる場所が数多くある。
市街地からフェリーで15分。
手軽に冒険できる最高のフィールドだ。

『南日本新聞』 2013年7月9日「桜島ルーキー日記(シーカヤック)」 ※筆者本人により一部加筆修正

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