37 姫宮神社の浜下り
深夜営まれる神秘の祭り
桜島の集落を歩くと、必ずといっていいほど神社に出合う。
野尻町にあるのは、姫宮神社だ。
境内はいつも美しく整えられており、地域の方々に大切にされていることがわかる。
地元では「姫宮さあ」と親しまれている。
この神社には、次のような言い伝えの日時に合わせ、春・秋の年二回大祭が開かれる。
中でも秋の大祭は、真夜中に行われる珍しい神事だ。
―枚聞神社の神様の中にいた姫宮の一人が、海へ流されてしまう。旧暦2月6日、海をさまよった姫宮が最初に到着したのは桜島南岸だった。姫が「寒い」と言うと湯が湧いたので、その場所は「湯之」と呼ばれることとなった。その後、再び海をさまよい、旧暦9月16日の深夜に野尻に着いた。「水を飲みたい」というと水が湧き、野尻は水の豊富な場所になった。水に困っていた住民は喜び、姫宮はこの地で暮らすようになった。
今年の旧暦9月16日にあたる10月20日午前0時、姫宮神社には地域の人々が集まっていた。
当然あたりは暗く、普段であれば集落を行き来する人々もほとんどいない時間帯だ。
明かりの灯った社殿の中では祝詞が読み上げられていた。
社殿での儀式を終えると、男たちがみこしを海へと運んでゆく。
「浜下り」だ。
笛や太鼓の音とともに、集落の中をみこしや参拝者の列が進む。
海を目の前に、粛々と神事は進められた。
そして、神社へと戻り、約1時間の祭は終わりを迎えた。
浜下りが行われるのは、海の安全祈願だとも、開聞から姫宮様の両親がこの地に会いに来るからだともいわれている。
「浜千鳥になって、両親がここまでやってくる」と、教えて下さる地域の方もいた。
ボクにはその姿を見ることはできなかった。
しかし、深夜の集落に響きわたる笛や太鼓の音、海を照らす明るい月...。
神秘的で忘れられない夜となった。
NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2013年11月12日「桜島ルーキー日記(姫宮神社の浜下り)」 ※筆者本人により一部加筆修正