42 腹五社神社(黒神埋没鳥居)

「変化の宿命」象徴する場

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「本当に埋まっているんだ」。
初めて訪れた時には、思わず見たままを口にした。
本来は頭上にあるはずの鳥居の笠木が、目線の下にあるのだ。
不自然な光景に違和感を覚えたが、しばらくすると不思議と見慣れてくる。
その状態でいることが当然かのように、鳥居は静かに堂々とたたずんでいる。

黒神埋没鳥居は、島内有数の観光スポットだ。
1914年の大正噴火で噴出した火山灰や軽石は、風下の黒神町で2mも積もった。
もともと高さ3mだったという鳥居も軽石に埋まり、現在、上部の約1mが姿を見せるのみである。
大噴火のすさまじさを体感できる、貴重な「災害遺産」といってもいいだろう。

近くでよく見ると、本来は神社の名が掲げられているであろう場所に、「腹」の文字が刻まれている。
浸食され、その続きを読み取ることはできないが、きっと「腹五社神社」の文字があったに違いない。
鳥居があまりに有名なため忘れがちだが、ここは腹五社神社の一角なのだ。

細い道を奥へと少し進むと本殿が現れる。
桜島に見られる多くの神社のように、コンクリートで頑丈に作られている。
こぢんまりとしているが、僕たちが普段親しんでいる神社と変わりない。
噴火後もこの場所は信仰の地であり続け、埋没後した鳥居もまた本来の役割を忘れてはいなかった。

本殿は、深いスダジイの森に囲まれている。
100年前に、2mもの軽石が積もった場所だ。
一度は葉を落とし、生死の境をさまよった木々。
しかし、なんとか噴火を耐え抜き、今では立派な鎮守の森が復活した
生命の再生の場所でもある。

大噴火の度に繰り返される、大地の変化。
地上に存在するものは、時に耐え、時に絶え、時には役割を変えてその土地に残り続ける。
腹五社神社は、そんな桜島の宿命を象徴するように黒神の地で時を刻んでいる。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2014年1月28日
「桜島ルーキー日記(腹五社神社)」 ※筆者本人により一部加筆修正

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