45 ノラザクラ
溶岩原にしぶとく咲く
「桜島」とはなんて素敵な名前だろう。きっと心を打つような桜の名所があったに違いない」。
この島の名前の由来を考え始めると、誰しもおそらく最初にこんなことを思い浮かべるのではないか。
しかし、残念ながら、桜の木と島の名には直接関係がなさそうである。
とはいえ、桜島にも桜は咲く。
市道224号線沿いには、ヒカンザクラ、ソメイヨシノ、ヤエザクラなど異なる品種のサクラが2㎞以上にわたって植えられている。
開花時期がばらけるので、長い間見頃が続く。
港からすぐそばの桜島自然恐竜公園も、親子で訪れたいお花見スポットだ。
だが、今回ボクがおススメしたいのは溶岩原に自然に生えた桜だ。
しぶとく生きているさまから、「ノラザクラ」と呼びたい。
溶岩なぎさ遊歩道は、烏島展望所と溶岩なぎさ公園を結ぶ約2.5㎞のルートだ。
コース全域は大正溶岩上につくられており、観光スポットとしてはもちろん、潮風が気持ち良いランニングコースとしてもおススメの場所だ。
この遊歩道には、ボクたちが注目している木がある。
荒々しく、いかにも硬そうな溶岩。
そのわずかな割れ目から顔を出す、ヤマザクラの木だ。
片手で握れてしまいそうなほど細く、全高も1mほどしかない。
そんな木が、春の訪れとともに花をつけるのだ。
溶岩にしがみつくように必死に咲く姿は「コンジョウザクラ」の名がふさわしい。
大正溶岩上には、数多くの「ノラザクラ」が生育している。
暖かくなるにつれ、ひとつ、またひとつと咲き、山の中腹あたりまでが少しずつ白く染まってゆく。
溶岩の黒、クロマツ林の緑に、白が映える。
この季節にしか見ることのできない景色だ。
日当たりを好む桜にとって、高木の少ない溶岩原は暮らしやすい土地なのかもしれない。
これから1カ月。火の島はまさに「サクラジマ」となる。
『南日本新聞』 2014年3月11日「桜島ルーキー日記(ノラザクラ)」 ※筆者本人により一部加筆修正