46 高免の一本道
ゆっくり海目指す400メートル
路線バスは不思議な乗り物だ。
車で何度も走った道も、バスに乗りつつ眺めると少し違った景色に見える。
新たな発見も多い。
バスは、時に幹線道路を外れて集落の中へと入ってゆく。
いつもは通ることもない道や景色を教えてくれるのだ。
鹿児島市営バス70番線「桜島代替線」は、島の北~東部を走る路線だ。
この路線もやはり、時に幹線道路の一周道路(県道26号線)を外れる。
坂を下り、「高免小学校前」のバス停に停車する。
きょうはここで途中下車して、高免集落を歩きたい。
バス停からは、集落を貫くように一本の下り坂が延びている。
ボクたちは、愛着を込めて勝手に「高免の一本道」と呼んでいる。
道幅は非常に狭い。
車1台がやっと通れる幅で、離合は限られた場所でしかできない。
しかし、ゆっくりと景色を楽しむ歩行者にとっては、これくらいがちょうどいい。
両側に迫る家々と溶岩の石垣を感じながら坂を下ってゆく。
道は小さな曲線の連続でできている。そのため、遠くを望むことはできない。
進むたびに次の景色が現れる。
「この道はどこへ通じているのだろうか」。
そんな期待を胸に、さらに坂道を下ってゆく。
そして、一本道は唐突にゴールを迎える。
海だ。
視界が開けると同時に、青い海が目に飛び込んでくる。
全長約400mに及ぶ坂道は、避難港へとつながっていた。
穏やかな海の向こうには霧島連山。港のベンチでのんびり休んだら、来た道を引き返そう。
停留所へ戻ると、すぐそばは休校中の高免小学校だ。
高台に建つ校舎からは、どんな景色が見られたのだろう。
一本道をたくさんの子どもたちが歩き、校庭からは遊び声が聞こえていたのだろうか。
この町のかつての姿に思いをめぐらせていると、次のバスが到着した。
名残惜しいが、高免集落を後にする。
バスは一周道路へと戻ってゆく。
『南日本新聞』 2014年3月25日「桜島ルーキー日記(高免の一本道)」 ※筆者本人により一部加筆修正