47 天水タンク
水事情の厳しさ伝える
ボクはいま、一軒家に暮らしている。
素敵な家と巡り合えたのだが、一人ではもてあますほど広い。
ぜいたくな悩みだ。
家の中はもちろん、車は10台くらい停まりそうだし、ちょっとした畑までついている。
自分の借家が特殊なのではない。
周りを見れば、母屋、離れ、倉庫などを備えた住宅は数多くある。
町を歩くたびに、大きな家が多いなと感心してしまう。
そんな桜島であるが、東桜島湯之地区の住宅は、その他の地域では出合わない構造物を備えていることがある。
主に石造りで、円柱や直方体の形をしている。
人が入れそうな大きなものもあるが、見たところ入口はない。
人間が出入りするようなものではないらしい。
これは、雨水をためるための「天水タンク」だ。
生活に必要な水を得るために、同地域では多くの家庭が備えていたようだ。
タンクの中には葉や石を敷き、雨水をろ過して利用した。
この設備からは、かつての桜島の水事情がうかがえる。
桜島には、水を得やすい地域とそうではない地域とがある。
「西桜島」は、居住地域のほとんどが扇状地である。
表層を流れる水こそないものの、地下水は存在した。
人の手で井戸を掘ることができたので、比較的水は得やすかったのだ。
一方、湯之をはじめとする「東桜島」は、土地のほとんどを溶岩に覆われている。
地下水は硬い溶岩の下だ。
川もない。
そのため、水は貴重品だった。
湯之の海岸沿いには、大きな井戸がひとつある。
しかし、塩分を含むため用途が限られた。
そこで、頼りになるのは雨水だったというわけだ。
水道の普及とともに、天水タンクは役割を終えた。
もしかすると、これも近い将来見られなくなる景色のひとつかもしれない。
湯之を歩いたら探してほしい。
桜島の「水」の歴史を語る、大切な地域遺産を。
『南日本新聞』 2014年4月8日「桜島ルーキー日記(天水タンク)」 ※筆者本人により一部加筆修正