溶岩の石垣

集落彩る緻密な"芸術"
「桜島の魅力を簡単に教えてほしい」
こんな問いを投げかけられたら、みなさんはどのように答えられるだろうか。
「非常に活発な火山であること。そして、そこに人が暮らしていること」。
ボクはこう答える。
毎日のように煙を上げる山の裾野が、人々の生活の舞台となっている。
このような場所は、世界中探してもナカナカ見つからないはずだ。
島内に点在する集落には、共通点がいくつかある。
例えば、港と坂。
穏やかな錦江湾を目の前に望む集落の港から後ろを振り返ると、必ず山の方へと延びてゆく坂道がある。
島であり山でもある抜群の自然環境の中に、桜島の暮らしは息づいている。
共通点はそれだけではない。
溶岩でできた石垣も大きな特徴だ。
そんな集落の中でも、あちこちに溶岩の石垣が残る東桜島町の湯之地区は、散策にオススメの地域だ。
道沿いに積まれた石垣の高さはひざ下程度から、人の背をはるかに超えるものまで、さまざま。
年代や作り手の違いによるのか、溶岩の大きさや形状は石垣ごとに少しずつ異なる。
しかし、どれもパズルのように隙間なく緻密に組み上げられており、その美しさにため息が出る。
石垣の活躍の場は町なかにとどまらず、中腹まで広がる農地でも数多く見ることができる。
その材料の多くは、土石流で運ばれてきた堆積物である。
島内の浜には、さまざまな大きさの石がごろごろと転がっている。
雨水に削られた溶岩が、土石流となって下流に運ばれてくるためだ。
それを利用して、古くから石垣が作られてきたのだという。
火山の島では、最も手軽に得られる石が溶岩だったのだ。
一周道路を少し外れて町を歩けば、普段気づくことのない島の魅力に出合えるはずだ。
展望所からの眺めもいいが、集落の風景も負けていない。
火山と人、そのどちらもが揃ってこそ、「桜島」なのだ。
NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2013年5月28日「桜島ルーキー日記(溶岩の石垣)」
※筆者本人により一部加筆修正